研究テーマ
①「青色光センサー蛋白質Phot1 LOV2ドメインのN末端へリックス領域の重要性の研究」
フォトトロピンは植物の光屈性や気孔の開閉を制御する青色光センサー蛋白質である。図1(a)に示すように、N末端側に光受容を担う2つのLOVドメイン(LOV1、LOV2)、C末端側にキナーゼドメインを持ち、LOV2とキナーゼを結ぶ領域をリンカードメインと呼びます。LOV2がキナーゼの活性を支配的に制御しており、その信号伝達にはリンカーに存在するへリックス(J)の構造変化が重要だと広く認識されています(図1 (b))。
しかし、近年の研究で信号伝達経路の新たな可能性としてLOV2ドメインのN末端側に存在する短いへリックス構造(A'α)が注目されています。
私はTG法を用いることでA'の構造変化を捉え、キナーゼの活性制御機構に対する新たな知見を得ることを目標に研究を行っています。
図1-1.(a)フォトトロピンの一次構造
(b)LOV2ドメイン周りの結晶構造
■A'αヘリックスの光反応
遺伝子操作で作成したミュータントのTG法による時間分解測定の結果を比較・考察したところ、A'αとJαは独立に反応を起こすことが示され、A'αの崩壊反応の方が遅いことがわかりました(図1-2)。A'αがJαとは独立に反応するという結果は、A'αが直接キナーゼの活性制御に関与している可能性を支持する結果となりました。
図1-2. A'α及びJαの光反応スキーム
②「FTIRを用いたPhot1LOV2ドメインの溶液中での光反応ダイナミクスの研究」
これまでの研究でフォトトロピンのキナーゼの活性制御にはLOV2ドメイン周りのへリックス(A'α、Jα)の構造変化が重要であり、その反応ダイナミクスもTG測定により明らかにしてきました。しかし、LOV2ドメインからこれらのへリックスにどのようにして信号が伝達され構造変化を起こすかについては依然不明なままです。TG法では蛋白質全体の動きは捉えられるものの、分子内での局所的な構造変化を捉えることがでません。したがって新たな分光手法が必要になってきます。
本研究ではFTIRを応用することで光反応における溶液中でのLOV2ドメインの局所的な構造変化を検出し、LOV2ドメインの光反応の全貌を解明することを目標に研究を行っています。
③「赤色センサー蛋白質Cph1の光反応ダイナミクスの研究」
赤色光センサー蛋白質フィトクロムは植物の種子の光発芽、芽生えの緑化、避陰反応、花成における日長感受などを制御しています。しかし植物由来のフィトクロムは精製が難しく物理化学的な手法などを用いて測定することに困難がありました。しかし、近年の研究によりシアノバクテリアもフィトクロム(Cph1)を持つことが報告されています。このCph1は純度が高いサンプルを比較的容易に精製でき、またその一次構造は高等植物由来のフィトクロムに非常に似ています(図3-1)。したがってこのCph1の光反応を研究することで高等植物由来のフィトクロムの機能解明に非常に有意義な結果が得られると考えられています。
図3-1. 植物由来のフィトクロム(Phy)とCph1の一次構造
■Cph1の光反応
Cph1は図3-2(a)に示したようにPr型のCph1が赤色光を吸収してPfr型になり、遠赤外光を吸収して基のPr型に戻ります。この光反応において発色団(PCB)が幾何異性体を形成することが報告されています(図3-2(b))。しかし、光反応におけるCph1の二次構造変化や三次構造変化の反応ダイナミクスはまだあまり明らかになっていません。
本研究で私はTG法を用いてこのCph1の光反応ダイナミクスを明らかにすることを目標に研究を行っています。
図3-2. (a) Cph1の光反応ダイナミス (b)発色団(PCB)の光反応変化
研究業績
学会発表
○Reaction of SyPixD under high pressure
「動的秩序シンポジウム」P62 2014.1.12@京都,
○色センサー蛋白SyPixDの高圧下における反応ダイナミクス
「日本化学会第94春季年会」4D416 2014.3.30@名古屋
学術雑誌に発表した論文
Dynamics of the Amino-Terminal and Carboxyl-Terminal Helices of Arabidopsis Phototropin 1 LOV2 Studied by the Transient Grating
Takeda K, Nakasone Y, Zikihara K, Tokutomi S, Terazima M
J. Phys. Chem. B, 117(4), pp15606-15613, 2013. 査読有
学会発表
(ポスター発表)
1)○Kimitoshi Takeda、Yusuke Nakasone、Kazunori Zikihara、Satoru Tokutomi、Masahide Terazima
「CONFORMATIONAL DYNAMICS OF THE N- AND C-TERMINAL HELICAL REGION OF THE PHOTOTROPIN1- LOV2 DOMAIN」、『The 6th International Symposium "Molecular Science of Fluctunations toward Biological Functions"』、P003、Kyoto、Japan、(December 2012)
2) ○Kimitoshi Takeda、Yusuke Nakasone、Kazunori Zikihara、Satoru Tokutomi、Masahide Terazima
「Diffusion change reveals conformational dynamics of the N- and C- terminal herical region of the phototropin1 LOV2 domain」、『33rd International Conference on Solution Chemistry (33ICSC) 』、2PE09、Kyoto、Japan、(July 2013)
3) ○Kimitoshi Takeda、Yusuke Nakasone、Kazunori Zikihara、Satoru Tokutomi、Masahide Terazima
「Conformational Dynamics of the N- and C-terminal helical regions of phototropin1 LOV2 domain」、『The 6th Asia &Oceania Conference on Photobiology』、POS11、Sydney、Australia、( November 2013)
4) ○Kimitoshi Takeda、Yusuke Nakasone、Kazunori Zikihara、Satoru Tokutomi、Masahide Terazima
「THE KINETICS AND ROLE OF THE N-TERMINAL HELICAL REGION OF THE PHOTOTROPIN1 LOV2 DOMAIN」、『The 2nd Internatinal Symposium on Dynamical Ordering of Biomolecular Systems for Creation of Integrated Functions』、P63、Kyoto、Japan、(January 2014)
(口頭発表)
1)○武田 公利、中曽根 祐介、直原 一徳、徳富 哲、寺嶋 正秀
「青色光センサー蛋白質フォトトロピンLOV2ドメインのN末端へリックスが示す構造変化検出」、『日本化学会第93回春季年会』IG8-10、滋賀、2013年3月
2)○武田 公利、中曽根 祐介、直原 一徳、徳富 哲、寺嶋 正秀
「青色光センサータンパク質フォトトロピン1LOV2ドメインのN末端へリックスの構造変化ダイナミクスの検出」、『第7回分子科学討論会』3D17、京都、2013年9月
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