理論化学研究室 / Theoretical Chemistry Group

理論化学研究室

理論化学研究室では、溶液内や生体分子内などの凝縮系における 化学反応と、それによりもたらされる分子機能のメカニズムを、 理論的に研究しています。

コンピュータを手に物質の物理は心の両手に
例えば生命体を、ナノメートルの空間スケールまで降りていった時に見えるものは、分子という物質的な実体です。ここでは、生物 ・非生物の区別はありません。この物質世界では、システムを構成する分子の関係性は物理法則によって明確に規定されています。分子の化学的性質は、分子を構成する電子の量子力学的状態により支配され、その振る舞いは力学及び熱統計力学に従います。しかしながら、生物を構成する分子には、40 億年の進化の洗練を経て得られた、比類なき複雑さと精緻さが備わっています。我々が目にする生体分子構造の息を呑むような複雑さは、分子の粗野な物質的振る舞いに協奏を与え、生命現象を可能にする顕著な分子機能をもたらしています。
   このような、生物を構成する分子の物質的な実体としての複雑さは、その理解に困難をもたらします。量子力学の創始者の1人であるディラックの言葉を借りれば、そのような問題を数学的に取り扱うための基本的法則は完全に分かっているが、その法則を適用すると解くことの出来ない方程式に行き着いてしまう、ということです。
   しかし時代は既にデジタルエイジ。物質的存在の耐えられない複雑さは、ムーアの法則(コンピュータの演算速度は 3 年で 2 倍になるという経験則)に代表されるコンピュータの急速な発展により解きほぐされてきています。我々の研究は、物質の量子化学と統計熱力学を基盤として、コンピュータの仮想空間に溶液内や生体分子内の化学現象を構築し、そのメカニズムを理解することを目的としています。

What I cannot create, I do not understand.
ここで一つの困難に直面します。物質世界の複雑さに対峙するとき、なにをもって理解したとするのか?この困難に向き合うためのプロトコルは、上に挙げたファインマンの言葉に表されています。物質の物理という観念とコンピュータの仮想空間から現実を生み出す、それが我々のチャレンジです。