凝縮系の化学反応理論
-量子化学と統計熱力学の融合-
溶液内や生体内の化学反応がもたらす複雑な分子機能を理解・設計するためには、化学反応を取り扱う量子化学と大きな生体分子や溶液系を取り扱う統計熱力学の両立が必要となります。我々は、非経験的量子化学法と分子動力学シミュレーションに基づく統計熱力学的手法を組み合わせた新規なハイブリッド分子シミュレーションを開発し、溶液内化学反応や自己組織化有機分子・生体分子などに対して、従来の静的な構造化学的発想では捉えられない分子の動的な柔軟性がもたらす分子機能の解明と設計に取り組んでいます。
光受容体タンパク質の分子機能
-光から化学エネルギー・情報を取り出す-
光が降り注ぐ地球上の進化を経て得られた光受容タンパク質は、非常に効率良く光エネルギーを化学エネルギーや情報に変換します。最近では、それらの光受容タンパク質を遺伝子工学的に細胞内に導入することにより、生体の非侵襲的な可視化や光による操作が可能になっています。我々は、分子シミュレーションを用いて、光受容タンパク質の光分子機能のメカニズムの解明や、新規な光特性を有するタンパク質変異体の設計に取り組んでいます。
分子モータータンパク質の分子機能
-化学エネルギーから力を取り出す-
生命活動は生体分子複合体が高い効率で能動的に力学運動をすることにより維持されています。一方、その動きを与えているのは、化学結合の生成・開裂を含むごく局所的な化学反応によってもたらされるエネルギーです。このような大きく異なるスケールを有する物質エネルギー間の変換により、顕著な分子機能制御が可能になります。我々は、分子シミュレーションを用いて、分子モータータンパク質の化学-力学エネルギー変換メカニズムの解明や、新規な化学反応制御の設計に取り組んでいます。
参考文献
研究の具体例は以下の日本語の総説に詳しく紹介しています。
ハイブリッド分子シミュレーションと実験研究の接点で見える生体分子機能のメカニズム. 林重彦, 化学フロンティア 23 1 分子ナノバイオ計測-分子から生命システムを探る革新的技術, 化学同人, 第 6 章, 89-98 (2014).
生体分子系の量子化学. 林重彦, DOJIN BIOSCIENCE 10 揺らぎ・ダイナミクスと生体機能-物理化学的視点からみた生体分子, 化学同人, 第 7.3 章, 121-133 (2013).
タンパク質の生物学的機能と化学反応. 林重彦, 岩波講座計算科学第 4 巻 計算と生命, 岩波書店, 第 3.3 章, 98-112 (2012).
酵素反応と生体分子機能の分子シミュレーション. 林重彦, CSJ カレントレヴュー・巨大分子系の計算化学, 08, 化学同人, 第 17 章, 166-171 (2012).
分子シミュレーションによる F1-ATPase の構造機能解析. 林重彦, 蛋白質核酸酵素, 52, 329-334 (2007).
ハイブリッドQM/MM分子シミュレーションによる生体内化学反応と機能の研究. 林重彦, 生物物理, 46, 76-81 (2006).